小説『死神の精度』『死神の浮力』あらすじと感想

今回は伊坂幸太郎の死神シリーズの2作をご紹介します。

伊坂幸太郎の死神シリーズ

伊坂幸太郎の死神シリーズは現在2つ発刊されています。どちらも主人公は死神の千葉。

死神は、会社員のように「調査部」の一員として人間世界に派遣されてきます。そして死すべき人間を1週間にわたって観察し、その人間を「可」なのか「見送り」なのかを判断します。「可」と判断されると8日目にその死を見届けます。

ちょっと変わった人間が死神かもしれない

死神の特徴としては以下です。

  • CDショップに入りびたる
  • 苗字が町や市の名前
  • 受け答えが微妙にずれている
  • 素手で人に触ろうとしない

実際に隣にいると「ちょっと変わった人だなぁ」と思うような人です。

主人公は死神の千葉

死神シリーズの主人公は2作とも「千葉」という人間(死神)です。

徹底的にクールで、調査対象となる人間の調査はしますがその人間の死については全く興味がなく、それでも仕事であるので1週間はその人間と行動を共にするという責任感の強さがあります。

なぜか千葉が仕事をするときは雨ばかりで、「人間が作ったもので一番素晴らしいのミュージックで、もっとも醜いものは、渋滞だ」という考えを持っています。

死神だからか、言葉は話せますがうまく理解していないこともあり、そのやり取りが軽快で面白く、「死神千葉」というキャラクターをとても立たせています。「良心がない」と聞いて、両親がいない「クローンってやつか」と返答するような会話をクールに話す千葉が目に浮かんできてしまいます。

『死神の精度』

6編の短編集です。死神の千葉と6人の死すべき人間との7日間の交流が描かれています。ここではネタバレは書きませんが、どれも心が温まるヒューマンドラマです。

クレーマーに悩むコールセンターの女性や、ヤクザとその子分や、吹雪の中の洋館で殺人事件に巻き込まれたり、恋愛のキューピットになったり、殺人犯とドライブをしたり、人間じゃないことを感じ取られた老女の依頼を聞いてあげたり。

死神の千葉は、人間に対して興味がなく、だからこそ思ったことを口にして、それが千葉に関わる人たちを導いていきます。ハッピーエンドかどうかは分かりませんがちょっといい話が6つもあり、大満足の一冊でした。

伊坂幸太郎の醍醐味は「伏線」であり、本作もちょっとした「伏線」があります。この伏線が回収されたときの気持ち良さは一気に伊坂幸太郎のファンになってしまうほどです。

「人間というのは、眩しいときと笑うときに、似た表情になるんだな」という千葉の言葉は、死神だからこそ気付いた人間の特徴であり、この一文を生み出す伊坂幸太郎の感性の塊です。

短編でテンポも良いのでサクサク読めます。死神というと「死」がテーマになりそうですが、そういった暗い内容でなく、その人の「生き方」といった死とは逆のものがテーマの作品です。

『死神の浮力』

前作の『死神の浮力』と違い、長編の物語です。

「前作の短編集では物足りない」「もっとガッツリ死神の物語がよみたい」と感じている人は、おススメです。

娘を殺された山野辺夫妻は、逮捕されながらも無罪判決を受けた犯人の本城への復讐計画を立てています。そこへ死神の千葉が現れ、山野辺の死の可否を判断するために1週間その復讐計画に同行することになります。

山野辺夫妻は、本城が犯人だと知っていて、自分たちの手で復讐するために無罪であることを良しとしています。

死神だからこそ不死身の千葉と山野辺夫妻の会話はちょっとずれているからこその面白さがあり、これが伊坂幸太郎の面白さの一つです。

死神千葉は、山野辺を「可」と判断するのか「見送り」と判断するのか。この結末は、ハッピーエンドなのかそうではないのか、ちょっと感想が難しい作品でした。

「人はいつか死ぬ」というセリフが何回も出てきますが、だからこそ今を全力で生きようとする人間の物語なんだと感じました。『死神の精度』を読んでなくても楽しめる作品です。

こんな人におススメ

伊坂幸太郎が初めてなら『死神の精度』

初めての作家さんって、ちょっと抵抗ありますよね。文章のクセとか、物語の構成とか、人それぞれの好みがあるので、なかなか手を出しにくいかと思います。

『死神の精度』は短編ですので、読みやすいですし、伊坂幸太郎の醍醐味の「伏線」もしっかり楽しめますし、伊坂幸太郎のキャラクター作りも分かると思います。

伊坂幸太郎のことが分かる一冊です。

ちょっと心がほっこりする物語が読みたいなら『死神の精度』

死神が主人公ですが、ほっこりするヒューマンドラマです。ストーリーもしっかりとしていて、伏線もあるので、人物を追いかけながら心が温まる物語です。

いつもは長編の殺人事件とかミステリーならばちょっと箸休め的な小説になりますよ。

がっつりミステリーなら『死神の浮力』

がっつり長編を読みたいと思っているなら『死神の浮力』です。長編ですが、展開も早く読みやすい文体ですので、そこまで長く感じませんでした。

SFチックなところもあるので、ちょっと冒険をしてみたい人にもおおススメです。

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